お盆休みの週が終わろうとする八月十九日の朝、朝日新聞の一面に「遺伝子組み換え作物 十都道府県が独自規制」の見出しが載りました。いわく、遺伝子組み換え(GM)作物の野外栽培を、自治体が独自に規制する動きが全国に広がっている、というもの。
GM作物の花粉が飛んできて交雑するのは困るから、野外で栽培実験を行う試験研究機関に対して、同じ種類の作物を作る隣の畑や田との距離を置くための基準や、試験研究機関には「届け出制」、農家の一般栽培は「許可制」にするなどの規制ができた、という内容です。
えーっ、日本でGM作物の生産が始まったという話は聞いてないけど、と思ってよく読むと、「商業ベース」の栽培は行なわれていないが、農林水産省系の試験研究機関をはじめ民間の試験研究機関の栽培実験がすでに各地でおこなわれていて、GM反対派の農家や消費者とのこれ以上のトラブルを避けるために規制に乗り出した自治体や、徳島県のように「産地間競争に対応するための県産農産物のブランド化戦略の一環」としてとらえ、いち早く「遺伝子組み換えゼロ環境作り」に取り組む姿勢をアピールするところも出てきたとか・・・・。
私たちが、スーパーで豆腐を買うときに、「遺伝子組み換えでない大豆」の表示を確認したりしているうちに、それどころではない状況が進んでいたようです。
「カルタヘナ法」ってなに?
記事内で、農林水産省農産安全管理課の人が、「法律でGM作物の安全性は担保されているが、作らないというのは地域の選択。規制をやめろという話ではない」と言っているので・・・。
その法律は何?と思って調べると、「カルタヘナ法」という聞きなれない法律に突き当たりました。ご存じでした?
日本を含む世界の一三二の国と地域が二〇〇〇年に締結した「バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書」というのがあって、これを日本国内で実施するために二〇〇四年二月から施行されているのが「カルタヘナ法」です。
これは「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」なんだそうです。
つまりこの法律で遺伝子組換えでできた新種の生物の国境を越える移動を規制し、日本の生物の多様性を脅かさないと認められた品種(野外栽培できるのはイネ、トウモロコシ、大豆、カーネーションなど九一品種が認められている)、食品衛生法や飼料安全法による安全性審査などを通った品種なら、法的には「安全が担保」されているとして、もうすでに自由に作付けできる状況が整っていたわけです。でもまだ、民間企業や農家による商業栽培の例が無いのは、「イメージ悪いな」というブレーキがきいてるからでしょうか?
実際、海外では「遺伝子組換え作物」の作付け面積は拡大の一途をたどっており、いずれ輸入ではいってくるか・・・試験栽培の名目で栽培された作物の花粉が飛び散ってなし崩しに広がっていくのか・・・・農林水産省農産安全管理課の人の言い方にも「ま、規制したければすればいいけど」といったニュアンスを感じちゃったのは私だけでしょうか。
遺伝子組み換えというと?
ジュラシックパークの映画のショッキングなシーンや、早死にしたクローン羊のドリー君など、遺伝子組み換えというとモンスターメークのイメージを連想しがちですが、まあ映画は作り話、ドリー君は未完成の実験レベルの話。でも、遺伝子組み換え大豆はすでに日本に大量に入っていて、豆腐や醤油、油の原料になっているし、家畜の餌のほとんどは輸入に頼っているわけですから、私はもうきっと、相当量食べちゃってます。というくらい、遺伝子組み換えは実用レベルで浸透し、結構身近に普通に存在しているのです。
遺伝子組み換えの基本は、遺伝子の働きを調べ、特定の遺伝子の働きを押さえたり、切り取って別の生物の遺伝子に組み込んで、新しい性質の生物を作り出す手法です。韓国のハン教授の事件報道でクローン胚を作る場面をテレビで見ているので、なんとなくあんな感じで、細胞から遺伝子を取り出してスポイトで新しい遺伝子を注入して・・・といったやり方をイメージしてしまいますが、植物に関しては、細菌やウィルスなどの微生物を使って作物の遺伝子に別の遺伝子を組み込ませる手法が多く、原理的には難しい操作も、人間のアクションとしては、「変化させたい種子を微生物の入った液体につける」といった一見簡単な作業でできちゃうんだそうです。で、どんな新しい性質を切り取って付け加えるか?なんのために?というと、一番多いのは「除草剤耐性」。つまり、種に除草剤に強い性質を組み込めば、畑に除草剤をまいても除草したい草だけが枯れて作物は残るので、除草剤の種類や回数を減らせる。結果、コストダウンできるというわけです。
次に多いものは、作物そのものに「殺虫性」を組み入れ、害虫が作物を食べると毒にあたって死ぬという性質。いずれの作物も、空から飛行機で農薬をまくような大規模農業の経済性をあげるために開発されました。でも、隣り合わせた狭い農地で、多用な作物を様々な価値観で作るような日本では、同じようなメリットが出せない。で、日本ではまだ商業的な栽培は始まっていない。でも、とすれば、農業の法人化が進み、大規模化が進んだとき、コスト優先でこれらの品種が選択されないとは言い切れません。すでに法律で「安全は担保」されているのですから・・・。
品種改良ってなに?
大豆以外でも、様々な新品種の農作物が次々に生み出されています。手のひらサイズのカボチャ、フルーツのように甘いトマト、カラフルな大根やジャガイモ・・・などなど、スーパーの野菜コーナーのバラエティは驚くほど豊かになっています。これは品種改良の成果。これって遺伝子組み換えとどこがちがうの?って思います。
一般的に「品種改良」といえば長い時間をかけて交配を繰り返す方法で、例えば「小さくて甘くないトマト」と「大きくて甘いトマト」を掛け合わせて新たに「小さくて甘いトマト」を作るようなやり方。「大きくて甘くないトマト」のような望まない性質のものを排除し、目標に近い性質のもの同志をかけ合わせて、少しずつ品種を固定する方法。この間、ほかの品種と受粉しないように隔離して、花を咲かせ、実を成らせ、品種を選抜して種を取って・・・という作業を何代も繰り返してやっと新しい品種の種が出来上がるという、時間も手間もかかる大変な仕事なのです。(次号へ続く)
この記事は2006年9月に発行した機関誌「いいものプロジェクト」第22号に掲載したものです。
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