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「野菜の美味しさ」ってなんだろう?

今回のいいものプロジェクトはマヨネーズ特集。どうやら世界で一番のマヨネーズ好きになった日本人の日常食に、すっかり欠かせなくなったこの調味料をキーワードにいいものって何かを考える号です。
野菜にたっぷりマヨネーズをかける映像に合わせて「・・・大好きが増えていく・・・」とコマーシャルがささやくのを聞いているうちに、野菜の美味しさって何だろう?と考えました。
野菜嫌いにとって救世主のようなマヨネーズ、実際、キユーピーのCMで取り上げられた野菜は売り上げが伸びるんだそうです。たとえば水耕栽培で周年生産が可能になった水菜の売り上げが、鍋料理で消費される冬に対して夏に伸びないことを苦慮していた市場関係者に、キユーピーのコマーシャルで取り上げられたことで年間の安定生産が可能になったと感謝されるくらい、影響力は大きいといわれます。
キユーピーのCMは商品そのものの価値より野菜を食べることの健康価値をアピールし続けてきたことが特徴。嫌いな野菜も「マヨネーズがあれば何とか食べられます・・・」という声は結構聞きますが、野菜の個性を包み込み、生のままでも美味しく食べさせる、はっきりと濃厚な味わいを持つこの調味料の台頭が日本人の野菜の食べ方を大きく変えたことは確かなようです。

憧れの清浄野菜の正体

ギリシア、イタリアなど地中海沿岸地域では紀元前よりキュウリやカボチャなどが生で食べられていたようで、病に倒れたローマ皇帝が、レタスを食べて一命をとりとめたという話も伝わっており、西洋の肉食の習慣の毒消し効果を期待する野菜の食べ方は、その後アメリカにわたり、サラダ・イーターと呼ばれるほど、大量の生野菜を食べる食スタイルを生み出しました。
野菜を生で食べるこの食スタイルが日本に紹介されたのは、戦後GHQに接収された帝国ホテルのパーティに出されたシーザーサラダが始まりといわれます。それ以前の日本では葱などの薬味や浅漬け、 瓜やスイカなどを果物として食べることはあっても、野菜を生で食べる習慣はほとんど無く、野菜は火を通して食べるのが常識でした。
魚は生で食べるのになぜ?と思いますが、これは、日本の農業が古くから人糞や家畜の糞を肥料として使ってきたからで、戦後、進駐軍が日本の野菜を生で食べて「寄生虫」に悩まされ、人糞肥料の使用中止を日本政府に迫ったことから、化学肥料農業への一大転換が一気に進んだといわれます。
当時、進駐軍指令部は化学肥料だけを使って栽培する野菜を「清浄野菜」と名づけて奨励し、昭和二四年、東京都指定の「清浄野菜販売店」として青山に誕生したのが「紀ノ国屋」。アメリカンスタイルのスーパーマーケットに並ぶ化学肥料で作った「キレイ」な野菜が憧れの時代がありました。そして今や日本のサラダは家庭料理の花形、三割を超える家庭で夕食に週四日以上登場すると答える調査もあるほどに定着し、お惣菜業界のドル箱メニューに成長しました。野菜の食べ方の変化が農業を変え、農業の変化が野菜を変えてきたわけです。

命を伝える自家採取の種

かつての状況とは裏腹に化学肥料を使わない有機野菜がもてはやされる今日、再び「有機野菜は食べるな!」の警告が聞かれます。かつてのように発酵不良の人糞が肥料として使われて寄生虫が蔓延するような危険より、有機堆肥の使いすぎによる土壌微生物の異常繁殖や、作物中の硝酸態窒素の残留、肥料に残留する抗生物質など薬剤の問題などが新たにクローズアップされています。「より多く・より速く」と生産性を無理やり上げるなら化学肥料も有機肥料も、自然でないという点では同じという意識から注目されているのは、肥料をやたらに使わない自然農法。
そこで、実際に訪ねてきました。伺ったのは千葉の石井さんと五十嵐さんの畑です。農薬や化学肥料はもちろん、畜糞肥料や有機肥料も使わず、枯葉や稲わらを使った自然堆肥だけで長年、様々な野菜を作り続けていらっしゃいます。大根の収穫を終えた畑の一画には、次に植える種を取るために野菜が花を咲かせていました。
自然農法の野菜でもアレルギーを起こす人がいることの原因は種苗会社から購入する種が、強い農薬で種子消毒されていたり、無理やり品種改良されているためと判断した石井さんは、栽培する野菜の種をすべて、昔から伝わる在来種に切り替え、自分で種を取り(自家採種)、その種で栽培しています。また、購入した種には、農家が勝手に種とりをして次のシーズンに撒けないように、花や実がならない一世代限りの命に調整されているのだそうで・・・。ということは、現在、種取している農家が止めてしまうと、種はシーズンごとに必ず種苗会社から買わなければならないものになり、生産の自由が無くなるとの思いから、石井さんは在来種のネットワーク(ナチュラルシードネットワーク)に加わり、生産者同士が自家採取した種を交換しあうことで、在来種の貴重な種を未来に残そうとされています。

自然が創造する多様な味

野菜が食のファッションをリードするといわれ、甘い野菜や色取り鮮やかな野菜、ミニ野菜や特殊な成分強化野菜など市場ニーズに合わせて、種苗会社が様々な野菜を種からつくり上げ、マーケットの野菜売り場は日に日ににぎやかになっています。
命の源である種子の自然にこだわる、自然農法の野菜には、人為的に操作して都合よく獲得した美味しさや派手さはありませんが、その品種が本来持っている苦味や香りが際立つ個性的な美味しさを持つ野菜たちです。
人によってはそれが命を洗うような鮮烈な美味しさに感じられたり、物足りなく感じたり様々だと思います。別な言い方をすれば、誰にでもわかりやすい甘さや色や形などの商品価値を追求していない多様性が魅力ともいえます。
ま、どちらにしろ、マヨネーズをつけてしまえば、とりあえず同じように美味しく食べられてしまうのですが、作為の無い自然が創造した野菜本来の味をしみじみ味わってみませんか?
                                   


この記事は2006年6月に発行した機関誌「いいものプロジェクト」第21号に掲載したものです。