「いきなりですが、天地創造を語る「創世記」には、神が二日目の朝に、天と地を分け、次の日に天の水を集めて海と陸を分けた事になっています。
次期ノーベル賞候補といわれる東大教授の松井孝典さんの「水の惑星」によれば、原始の地球は小惑星の衝突によるエネルギーでどろどろに溶けた火の玉地球で、これが冷える過程でまず原始大気と原始地殻にわかれ、さらに大気が冷えて雨となリ、まず水が地表を被い、次に地殻が冷えて軽い花崗岩質が浮き上がって陸地となった。というのですね。
そして、当初強い酸性だった海が、陸に降り地殻を溶かして流れ込む雨のミネラルで中和され、原始大気に充満していた二酸化炭素が大量に海に溶け込むことが可能になり、大気の温暖化が抑制され、生命にとって居心地の良い環境が整えられたのだそうです。
最新の科学理論と神話が似ているというのも驚きです。
動物、植物、鉱物といった具合に、天然のものをわけて行く時、水は何処へ分類するのだろうといつも悩んでいたのですが、水は鉱物ではないけれど、鉱物と同様に、地球が出来上がる過程のかなり早い時期から存在する天然物なのだということに納得したのです。
雨水もリッパな天然水
「天然水」と聞いてどんな水を思い浮かべるかと言うと、やはり、泉からこんこんと涌き出る清水でしょうか。
夕立が降って、道路を濁流にしてマンホールに吸いこまれる雨水も、紛れもない天然水なのですが、ちょっと違うと思うのは、やはり意識が、飲料としての価値を優先しているからなのでしょう。でも、地下水に恵まれない島では、雨水をためて飲料用にしています。
サンゴ礁の島、宮古島では、地下の地層に保水性が無く、地下水が海水に近くなってしまうのだそうで、戦後地下の地層にコンクリートの防水壁を作り、雨水を地層にためる天然の貯水漕を作り、現在これを農業用に使用しています。
島に限らず、普通の井戸でも、雨が降るとすぐに水位が上がるものは少なくありません。
こうした井戸水は、地表の有害物質や有機物を溶け込ませているケースが多く、これらは飲料に不適とされます。
ハイキングなどで、崖から湧き出す水にロマンを感じて「アッ、清水!」などとすくって飲んだら、崖の上のロッジの排水が混ざっているなんて笑えない事もあるわけです。
地下水は金銀の鉱脈と同じ
最近、人気が出ているフランスの「ヴァト・ヴィレール」という水のウリは、硝酸塩、亜硝酸塩をまったく含まない(数値ゼロ)という、きわめてピュアな水という点です。
硝酸塩、亜硝酸塩は、肥料の使用の多い土地から検出されるといわれ、この数値が高ければその他の農薬や微生物による土壌汚染の危険性も高くなるわけで、数値がゼロということは、「ヴァトヴィレール」を生み出す環境が人間の営みに汚染されていない証しとなり、農業先進地域のヨーロッパにおいて、硝酸塩、亜硝酸塩をまったく含まないミネラルウォーターは非常に稀であるのだそうです。
「ヴァトヴィレール」の水源は「コントレックス」や「ヴィッテル」にも近いアルザス地方にあり、アルプスなど高い山々にに降った雨水が、ヨーロッパの古い地層を潜り抜け濾過され、様々な物質を溶かし込みながら地層深くに静かに貯留されているわけです。
金銀の鉱脈を掘り当てるのと同様、個性的でおいしい地下水を堀り当てる事は、全世界に輸出可能なすばらしい財産を持つことになるのです。
十年ほど前、ヨーロッパ随一の食品会社ネスレ社が、水のペリエ社を買収した事が話題になりました。
ヨーロッパでは地下水を商品にする際、企業には水源及び周辺の自然に対する厳しい管理保全が義務付けられます。
地下水の質が外部から汚染されたり、水質が変化しないように保全する事は、周辺の自然を守ることになリ、食品会社として、水ビジネスに参入する事は社会貢献度の極めて高いイメージを
消費者に印象付け、ブランドイメージを高める効果があるので、買収は決して高い買い物ではないのだそうです。
殺菌したら自然では無い
そのままの水質を変えない事、これがヨーロッパで重視される水の価値です。掘り当てた水に備わった様々な質のそれぞれをそのまま、ナチュラルミネラルウォーターとして認証します。
ですから、ヨーロッパでは地下水を瓶に詰める際に加熱や濾過など、人工的な処理を一切してはならないことになっています。
もともと水質検査で人体に有害な物質や微生物の有無は厳しくチェックされ、本来、殺菌濾過の必要が無い物をナチュラルミネラルウォーターと認証するいう考えです。
たとえ水に微生物が含まれていても、それが人体に危害を与える物で無ければ、その生きた微生物の存在その物を、水の自然な姿として尊重するわけです。
逆に、日本では、微生物がいてもいなくても、とりあえず殺菌する姿勢で、瓶に詰める際、すべての水に殺菌処理が義務付けられており、その結果、日本産のナチュラルミネラルウォーターは、ヨーロッパ基準では、単なるボトルドウォーターに位置付けられます。
世界基準に統一されると、このままでは、日本のナチュラルミネラルウォーターが無くなるというわけです。
何万年単位の時間をかけて岩盤に染み込み濾過される閉鎖系のヨーロッパのクリーンな地下水と同様の水質を誇る、深い地層の地下水が日本でも産出していますが、水は殺菌する物という基準が変わらない限り、日本産のナチュラルミネラルウォーターは、基準の上では早晩消えて無くなるでしょう。
合成以外は皆天然
試験管に水素ガスと酸素を満たし、火を近づけると「キュン」と音を立てて燃え、試験管の内側に細かな水滴がつきます。
合成以外はまさにすべて天然。極わずか生産される合成の純水を除き、今、地球上に存在する水は、原始地球で誕生した水その物が、空から陸へ、陸から海へ、そして海から空へと、形を変え姿を変え、循環しているのです。
私達が飲んだ水が私達の細胞を満たし、排泄される事もこの流れの中に存在します。
何が天然かといえば、水についてはすべて天然。
自然の大循環をゆったり移動する水を、一時、人間界で利用するために様々な形でレンタルしている感じでしょうか。たとえ、人の営みが水を汚しても、大きな循環の中で、微生物の働きを含め様々な自然現象により浄化されて巡ってくるのです。
そして、命はこの流れの中から外れることはできないのです。
食の基本の水が教えてくれる事は、人の営みはすべて、天然を一時レンタルしているということ。借りずに所有していると思う事が間違いの始まり。
この記事は2003年3月に発行した機関誌「いいものプロジェクト」第8号に掲載したものです。
|